Venom Prison「Primeval」(2020)

2021年1月26日

英サウスウェールズを拠点に活動しているデス・メタルバンドの再録音+新曲の企画盤。

今回もアートワークはEliran Kantor(エリラン・カンター)が担当!!

Larissa Stupar(ラリッサ・ストゥーパー) 擁するデス・メタルバンドVenom Prison(ヴェノム・プリズン)。去年、リリースした2ndアルバム「Samsara」が、英メタル関係のメディアから大絶賛を受け、「KERRANG!」の表紙にも選ばれるなど、今、大注目を集めている彼らだが、1年ちょっとという短いスパンで早くもニュー・アルバム「Primeval」(プライミーヴァル)<Prosthetic Records>からリリース。

元々、ハードコア畑のメンバーが集まって結成されたオールドスクール・デス・メタル(以下OSDM)スタイルのバンドで、ここ何年かで注目され始めたOSDMリバイバルのバンドとしてもよく紹介されている。そんな彼らの音楽性は、ハードコア・マインドを持ったOSDM。音楽ルーツとしては、Bolt Thrower、CarcassNapalm Death等のUKデス・メタルからの影響が大きい。元々、UKデス・メタルは、ハードコアやクラスト・コアといったジャンルと共に発展してきたのでVenom Prisonの音楽的背景を考えると納得である。また、ハードコアでは、Terror、Brotherhood、Chokehold、ハードコアとメタルの中間的バンドであるHatebleedなどもルーツとしてあげられている。昨今、デス・メタルは、細かすぎるくらいにサブジャンルが枝分かれし、テクニカルなアプローチが主流になっているが、彼らは、楽曲の速さや激しさばかりではなくデス・メタルの本来の持ち味である「不気味さ」や「不穏さ」といった部分にも意識的に取り組んでいるように感じる。

今回のアルバム「Primeval」は、キャリア初期(15年)にリリースされたEP「Defy The Tyrant」、「The Primal Chaos」の楽曲の再録音+新曲2曲が収録。正直、原曲は音や技術面が楽曲のレベルにまだ追いついていない印象を受けたが、この5年の間に、多くのLiveや作品リリースを経験する中で培ってきたスキルが、「Defy The Tyrant」、「The Primal Chaos」という2つのEPを蘇らせた。と同時に、今作は基本的には原曲に忠実なアレンジなので、元々持ち合わせていた作曲センスの素晴らしさも今回改めて証明されたと思う。

また、新曲2曲が収録されたことで、Venom Prisonがこの5年間でどう進化してきたのかが感じ取れるファン垂涎の一枚であると同時に、バンドの最初期&最新の曲が一気に味わえるミニベスト的なアルバムなのでVenom Prison入門編としてもうってつけの一枚。OSDMスタイルでありながら、彼らのルーツであるハードコアのスタイルも上手く融合させた楽曲は、デス・メタル原理主義みたいなファンから、昨今のデスコア好きのキッズまで、多くの人に愛されると思う。


メンバー

・ Larissa Stupar(ラリッサ・ストゥーパー) :Vocals

・ Ash Gray(アッシュ・グレイ) :Guitars

・ Ben Thomas(ベン・トーマス) :Guitars

・ Mike Jefferies(マイク・ジェフリー) :Bass

・ Joe Bills (ジョー・ビルズ) :Drums

楽曲紹介

01. Usurper of the Throne

02. Life Suffer

03. Mortal Abomination

04. Path of Exile

05. Defy the Tyrant

06. Babylon the Whore

07. Daemon Vulgaris

08. Narcotic

09. The Primal Chaos

10. Defiant to the Will of God

11. Slayer of Holofernes

#1 力強く打ち込まれるバスドラムとアグレッション全開なスラッシーなギターリフが印象的な楽曲。タメを効かせたヘヴィなリフの中にもオクターブ奏法やハーモニクスをサラッと織り混ぜる事で上手くフックとなりキャッチーな印象を受ける。終盤の極悪ブレイクダウンはやはりハードコアからの影響を感じられる。

#2 展開の多いプログレッシブなナンバー。スラッシーなギターが暴れ回り、音の壁状態のバンドサウンドがグルーヴィーに動きだし、テクい速弾きとブラストビートを立ち続けに打ち込んだかと思うと、ここで極悪ブレイクダウン。CandlemassBlack Sabathあたりにも通じる禍々しさ・・・とここでクリーンボイス!!イノセントな歌声が印象的。古いテープをコラージュしたような質感に拘りを感じる。

#3 マイナー調の旋律とプリミティブなリズムをバックに悲しみの咆哮が木霊する。メタリックなリフが徐々に存在感を増していく一曲。

#4 リフの煮え切らない不穏なコード感がなんとも心地よい(笑)テクニカルなアレンジが流行している昨今、楽曲の速さやスラッシーなリフに頼らない、ミドルテンポで繰り広げられる不気味な世界観はなんとも痛快である!!

#5 強烈な咆哮と憎悪を込めたバンドサウンドがブラストビートとともに冒頭から叩きつけられる。コード進行やブレイクダウンからはハードコアエッセンスを感じさせるが、ゴス的な世界観を感じさせるゆったりとした展開をさらっと挿し込むあたり一筋縄ではいかないバンドのプログレッシブな一面が窺える。

#6 禍々しいギターのトレモロリフを絡めた強烈なブラストビートがまるで死刑執行マシンのように終始存在感を見せつける。楽曲は様々に展開していくが、ハードコア由来のアグレッションがコード進行やバンドのノリに通底している。

#7 今作の中でもパンク/ハードコア色の強いノリが前面に出たナンバー。バンド全体のノリがグルーヴィーでLive栄えしそうな楽曲。キャリア初期ということもあり、細かく展開するギターにドラムが呼応できていない印象を感じた。

#8 触るものみな切り刻んでいくギザギザハートどころじゃないスラッシーなリフがとにかく爽快!!シンガロングしたくなる「EAT!EAT!EAT!or DIE!DIE!DIE!」はクセになること間違いなし。疾走パートからのブレイクダウンの流れは常套手段とはいえ非常に心地よい。

#9 終始叩きつけるようなグルーヴからはデス・メタルよりメタル・コアに近い印象を受ける。細かく緩急をつけながら緊張感を最後まで保っていく。デス・メタル的なトレモロを活かしたフレーズが随所で聴けるが全体の印象としてはテクニカルに走らず、世界観作りに焦点を絞っている印象を受ける。

#10 一つの流れが完成したかと思うと断絶し、次の流れに向かう。ぶつ切りのリフが貼り付けられて構成されているような印象。サビと思われる部分のメロディックなパート以外はなかなか流れが掴めない。と思ったら唐突にCynicからの影響を思わせるようなフュージョンチックなギターが登場したりと一筋縄ではいかない楽曲。前作アルバムの延長戦上にあるとは思うがなかなかに難解な印象。

#11 前作のアルバムに入っていてもおかしくない楽曲。印象的なのはガナリながらメロディラインを歌っているところだ。ガナリながらといえどもメロディラインを持ち込むというのは画期的な一歩だと思う。もしかしたら今後、よりメロディックな可能性に向かう可能性もあるかもしれない。

参考資料

・ヘドバンvol.26 2020年3月31日発行(発行 シンコーミュージック・エンターテイメント)→「デス・メタル」有識者会議 川嶋未来(SIGH)×関根成年(BUTCHER ABC)、Venom Prisonラリッサ・ストゥーパー(Vo)インタビュー
※ラリッサ・ストゥーパーのインタビューは、彼女の生い立ちやバンドについて、現在のシーンに関する思いなどが語られたインタビューですが、「Primeval」リリースに関する記事ではありません。面白いので是非!!

・Marunouchi Muzik Magazine NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【VENOM PRISON : SAMSARA】
2019年5月3日:http://sin23ou.heavy.jp/?p=12534
2ndアルバム「Samsara」リリース時のインタビュー。彼女の歌詞に込めた思いなどが語られています。面白いので是非!!