Four Stroke Baron「Monoqueen Split EP」(2020)
2020年11月2日
ネバダ州リオ出身のプログレッシブ・メタルバンドのカヴァー&リテイク集。
Four Stroke Baron(フォー・ストローク・バロン)は、ネバダ州のリオで11年ごろから活動をスタート。14年にリリースした1st EP「Four Stroke Baron」が、以前このブログでも特集したCloudkickerことBen Sharpの目に留まり、彼のブログで紹介されたことから注目が集まる。15年にリリースした1sアルバム「King Radio」は、各種音楽媒体から称賛を受け、現在の所属レーベルである<Prosthetic Records>(プロスセティック・レコーズ)の目に留まる。レーベル所属となった彼らが、過去最高に野心的に音楽に取り組んだ2ndアルバム「Planet Silver Screen」は、彼らの培ってきた音楽性の集合体となり、楽曲によっては未知の領域にまで踏み込んだ刺激的なアルバムとなった。ちなみにこちらのアルバムは、ex-JAGA JAZZISTで、現在ノルウェーのエクスペリメンタル・ジャズバンドShiningのメンバーであるマルチ奏者のJørgen Munkebyがサックスで参加している。ゲストもなかなかに刺激的(!?)である。
そして2ndアルバム以来2年ぶり、再び<Prosthetic Records>からのリリースとなる今作「Monoqueen Split EP」(モノクイーン・スプリット・イーピー)は、カヴァー曲&再録曲で構成された、ファンにはたまらない企画盤となっている。実は、ファンの方には大変申し訳ないが、私は今までFour Stroke Baronを聴いた事がなく、たまたま今作の企画盤を聴いてファンになり、2ndアルバム「Planet Silver Screen」→1stアルバム「King Radio」→1st EP「Four Stroke Baron」と聴いていった。
彼らの音楽のどこに惹かれたかというと、ニュー・ウェイヴ要素の強いプログレッシヴ・メタルサウンド、そしてニュー・ロマンティックやそのルーツとなるDavid Bowieあたりを連想させる、太く伸びやかな歌声である。楽曲の雰囲気から近い音楽性のバンドというとDeftonesが真っ先に思い浮かんだのだが、時にアブストラクトな色合いが強い彼らの楽曲に対し、Four Stroke Baronは一つ一つの要素がはっきりとしたもう少しポップな印象だ。(例えるなら、Deftonesは色んな色がグシャっと混ざったイメージだが、Four Stroke Baronは、ここはジャジーなパート、ここはメタルのパート、と分かりやすい形で楽しませてくれるイメージ。)
今作は、#1~#6がカヴァー曲、#7~#11がデビューアルバム「King Radio」収録曲の再録となっている。The Beatlesを初め、クラシカルなハード・ロックバンドRed Rider、彼らのニューウェーブ的な側面を強く認識させる、Tones on Tail(80sニュー・ウェイヴでありゴス・ロックの元祖Bauhausのメンバーを中心に結成されたバンド)、そして意外なところではグラスゴーのエレクトロ・ポップバンドCHVRCHES、パンク・オルタナなどの音楽性をも内包したHipHopバンドDeath Grips、そしてUSの最前線で飛ぶ鳥を落とす勢いで大活躍しているラッパー、Post Maloneまで、幅広いジャンルから選曲されている。彼らの音楽的背景の幅広さを再認識させられる。
そして「King Radio」からの再録曲は、基本的な音楽性はそのままに、よりモダンなメタルサウンドとなっている。こちらは、バンドサウンドがどう変化しているか?ぜひ原曲と聴き比べてみてほしい。
メンバー
・ Kirk Witt(カーク・ウィット) :Vocals/Guitars
・ Keegan Ferrari(キーガン・フェラーリ) :Bass
・ Matt Vallarino(マット・バジャリノ) :Drums
楽曲紹介
01. Lunatic Fringe (Red Rider Cover)
02. Lungs (CHVRCHES Cover)
03. Burning Skies (Tones on Tails Cover)
04. Mean Mr. Mustard (The Beatles Cover)
05. Why a Bitch Gotta Lie (Death Grips Cover)
06. Broken Whiskey Glass (Post Malone Cover)
07. Gone
08. Vacant Planet
09. Lowly Argonaut
10. Sleep Flood
11. A Sound of Thunder
#1 Red Riderのカヴァー。楽曲の良さはそのままに、完全にFour Stroke Baronの世界観の楽曲になっている。重心の低いリフと冷たいクリーンギター、時折顔を覗かせるシンセによるフレーズが独特の世界観を作り出している。ニュー・ウェイヴを感じさせる個性的な歌声はクセになる。Deftonesが好きな人に特にオススメしたい。
#2 #1の世界観を引っ張りつつ突入するCHVRCHESのカヴァー。甘酸っぱい歌メロが印象的だが、Kirk Wittの持ち味である繊細な表現がより活き活きと輝いているように感じる。ニューウェーブ色の強いFour Stroke Baronの音楽性が上手くマッチした選曲だと思う。
#3 ゴス色の強いTones on Tailのカヴァー曲。雰囲気を大事にしつつ、Four Stroke Baron流にアレンジを膨らませていった印象。ノイズ担当と化したギターからは若干シューゲイザー的な側面も感じ取れる。中盤以降ガラッとアレンジを変えて大仰なツーバス連打が始まるが、その自由さは、At The Drive-InやThe Mars Voltaをも彷彿とさせる。
#4 The Beatlesのカヴァー。ジョン・レノン曰く「インドで書いたガラクタの一つ」。1分6秒の小曲が、勢いよく切り込むソリッドなメタルサウンドに生まれ変わっている。ドライブするリフと裏で細かく動き回るめんどくさそうな(笑)ドラムフレーズは聴きごたえあり!!
#5 Death Gripsのカヴァー。#4の終盤から静かなメランコリックパートを挟み、Spulturaを彷彿とさせる壮大でトライヴァルなサウンドが展開される。原曲のドープで危なっかしい雰囲気が幾分後退しており、メタルサウンドに一気に舵を切った印象。グルーヴィーなリフとスペーシーだったりサイケだったりが内包された独特の世界観はMastodonやBaronessあたりが好きな人はしっくりくるのでは??タイトル名を何回も繰り返す謂わばサビ的な部分が削られていたのは若干寂しい!!
#6 Post Maloneのカヴァー曲。ラスボスが出てきそうな、大仰な雰囲気のヘヴィリフが展開される。間を活かした原曲がまさかのドゥームメタル/スラッジ ・コアテイストのアレンジに。ラップとの組み合わせは非常に面白い!!
#7 静寂の中、悲しい旋律のピアノが響き渡る小曲。
#8 異形のラウドミュージック。静/動では割り切れない、静と動の間に多くのグラデーションが存在する楽曲だと思う。暴れるのではなく感じるタイプのラウドミュージック!Farなどの初期エモにも通じるギターサウンドがモダンなアレンジに!!こちらもDeftonesが好きな人にオススメ!!
#9 アグレッション漲る骨太な演奏とニュー・ウェイブ由来のメロウな歌の組み合わせがなんとも怪しげでクセになる。モダンなアレンジになり、より迫力が増している。
#10 Four Stroke Baron節全開のジャジーなピアノからスタート!大きな展開はないものの、バンドサウンドが加わり、リズムやフレーズをちょっとずつ変えながら最後まで一定の緊張感を保たせる。唐突にツーバス連打をぶっ込んでくるのも彼ららしい。この中毒性アリの歌メロを思いついた時点で彼らの勝ちである。モダンなメタルアレンジにより原曲以上に楽曲に奥行きを感じさせる。
#11 原曲はコード感や細かいフレーズ、コーラスが前面に出ていたが、こちらはモダンなメタルサウンドが前面に。イントロのクワイアがなくなっていたり所々寂しさはあるが、明確に前作にはないアグレッションを感じるので、こちらはこちらで好き。
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Posted by msysngn
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