Hum「Inlet」(2020)

2020年10月29日

イリノイ州はシャンペーン出身のオルタナティブロックバンドの22年ぶりの5thアルバム。


Hum(ハム)は、1989年に結成されたイリノイ州シャンペーン出身のオルタナティブ・ロックバンド。90年代に4枚のアルバムをリリースした後に、00年に一旦解散。その後、断続的な活動期間を経て、15年に再結成。

Humの作品で一般的によく知られているのが、3rdアルバム「You’d Prefer an Astronaut」収録曲「Stars」はシングルカットされ、チャート上位にランクイン。CMソングに起用されるなど、アメリカ国内で大きなポピュラリティを得た。

私がこのバンドを知ったのは、大好きなDeftonesChino Morenoが、”自身の音楽的なルーツ”として雑誌のインタビューでバンド名を挙げていたのがきっかけだった。その時に挙げられていた3rdアルバム「You’d Prefer an Astronaut」を当時聴いてみたのだが、何故か、当時勝手に期待していたメタル的なサウンドとは程遠く感じ、以降、Humはあまり触れてこなかった。それから何年も経ち、様々な音楽を聴くようになった中で、22年ぶりの5thアルバムとなる今作「Inlet」を聴いて、ラウドな作風でありながら、聴いていて情景が色鮮やかに思い浮かぶ音楽的な豊かさに感動した。ラウドロックという方法で、フィジカルな側面だけではなく、人間の内面にグーっと入っていくような表現をするDeftones音楽的・精神的な”核”のようなものをHumの楽曲から感じ取れたと思う。

潰れる寸前の強い歪みや独特なコード感からはシューゲイザー的なギターアプローチを感じ、ドゥーミーな音像やループするリズムからはポストメタルを感じた。また、”どことなく”というレベルだがEcho&The BunnymenTeardrop ExplodesU2などのネオサイケ勢の影響が垣間見える曲もある。こういった多くの要素が重なり合い、私たちに様々な景色を見せてくれる。Deftonesだけではなく、Cave InDeafheavenなどが自ら影響を公言してることからも分かる通り、時代を超えて、多くのバンドがHumから影響を受け、今現在も新しい花を世界中で咲かせている。


メンバー

・ Matt Talbott(マット・タルボット):Vocals/Guitars

・ Tim Lash(ティム・ラッシュ) :Guitars

・ Jeff Dimpsey(ジェフ・ディンプジー) :Bass

・ Jason Gerken(ジェイソン・ガーケン):Drums

楽曲紹介

01. Waves

02. In the Den

03. Desert Rambler

04. Step into You

05. The Summoning

06. Cloud City

07. Folding

08. Shapeshifter

#1 初期ポストハードコア90年代オルタナな雰囲気に通じる雰囲気がある。力強くもどこか意図的に輪郭をぼやかしているような印象が強く、メロディラインも含めてノスタルジーを感じさせる。深く潜っていくようなベースラインが印象的。

#2 比較的ゆったりとしたテンポとシューゲイザーを感じさせるギターが印象的。ベースがぐいぐい曲を引っ張っていき、2本のギターにより描かれる色彩豊かな音色が楽曲を彩る。煌びやかなギターと躍動感のあるリズム隊の作り出す楽曲は完成された1枚の絵をみているようだ

#3 ヘヴィなギターリフに不穏なアルペジオ。動きのない序盤から、音がなくなり、また動き出す。シンプルだが物語性を感じる楽曲。

#4 音像のヘヴィさと90年代オルタナを彷彿とする憂いのあるメロの組み合わは至高。終盤のアルペジオが入ってくるところは、とにかく煌びやかでかっこいい!

#5 ドゥーミーなバンドサウンドが一気に覆い尽くす。空間系ギターによるアトモスフェリックなフレーズが世界観に奥行きをもたらす。過去のHumサウンドからしてもかなり悪そうなサウンド!!この20何年の間に一体彼らになにがあったのだろうか笑 Isis、Jesu、Pelicanなどのポストメタル勢が好きな人にオススメしたい!!

#6 こんなに歪に歪んだ音なのにどこまでも優しく聴こえるのは何故だろう。音色も比較的シンプルだと思うが、聴いていると色彩豊かな情景が思い浮かぶ。うねるベースが圧倒的な躍動感を表現している。

#7 どことなくEcho&The Bunnymen、U2あたりのネオサイケ勢の音を今の時代のラウドな音に置き換えたような印象を受けた。後半のJesuを思わせる展開が最高にカッコいい。

#8 宇宙に1人放り出されたような、孤独感を感じる。壮大な音の塊の前に気圧されてしまう。優しい響きから、音楽的バックグラウンドの豊かさを感じてしまうスペースロック。

Humの魅力を語る時に忘れてはならないのがMatt Talbottだろう。素朴な印象を受ける声質と、彼独特のメロディは、楽曲の世界をより短かに感じさせてくれる。あからさまにエモくない、わざとらしい起伏のない歌だからこそつい気になって聴き込んでしまう。