Hilary Woods「Birthmarks」(2020)
アイルランドはダブリン出身のアーティスト/シンガーソングライターの2ndアルバム。
元JJ72ベーシストでもある女性SSWの2 ndアルバム。ゲストはこちらも昨年話題を呼んだJENNY HVAL(ジェニー・ヴァル)。
彼女のアイデアを具現化する為、ホームレコーディングをノルウェーの実験的なノイズプロデューサーであり映画制作者のLasse Marhaugが参加。フィールドレコーレディング/アナログベースシンセサイザー/静寂なボーカル/激しいノイズ処理/勢いのあるチェロ/豊かなパーカッションなど彼とのコラボで多くのアイディアが生まれた。GrouperやCarla dal fornoにも通じる不穏な空気と夢心地な余韻に浸れる。
Cocteau Twinsを彷彿とさせるような透明感のある楽曲が多く収録されていた前作に対し、今作は。圧倒的に暗く、ノイズやフィールドレコーディングによる実験的な側面がより前面に出た作品である。端的に言い表すとダーク。しかも様々な音を幾重にも重ねて描く景色は、この世のものとは思えないほど、どんよりとした空気が広がっている。楽曲も大きな起承転結があるわけでもなく、誤解を恐れずに言えば同じような質感の楽曲が並んでいる(最後の曲では微かな光を感じる)。フォークやブルース、ポストクラシカル的な音楽と実験的なドローンやノイズ、ビートミュージックが合わさることで、郷愁と破壊衝動がない混ぜになった濃密な異空間を私たちに見せてくれる。
レコーディング期間中、彼女は妊娠中だったということもあり、己の肉体の変化による心の揺れ動きが音や歌詞から見て取れる。アルバムの中でも「私は恐れている。それは私の中で成長している」という生々しい彼女の体験を歌う「Orange Tree」が印象的だ。
メンバー
・ Hilary Woods(ヒラリー・ウッズ):Vocal
ゲスト
・ JENNY HVAL(ジェニー・ヴァル)
楽曲紹介
01. Tongues of Wild Boar
02. Orange Tree
03. Through the Dark, Love
04. Lay Bare
05. Mud and Stones
06. The Mouth
07. Cleansing Ritual
08. There is No Moon
#1 真夜中、誰からも忘れ去られた廃屋から漏れ聞こえてくるような、ダークでありながらどこか郷愁を感じる楽曲。重々しいビートと様々な効果音が映像を喚起させる。
#2 (Ah〜Ah〜Ah〜)という印象的なフレーズが耳から離れない。トラックも一見シンプルな作りのようだが細かい部分に緻密なアレンジが施されていて映像的な音楽。
#3 チェロが不安を煽る音色を奏でる。ギターを始め、琴のような音色、様々な効果音等が重なり、郷愁を感じる景色を作り出す。
#4 やはり存在感のあるチェロによるドローンミュージック。幾重にも重なる声や音から崇高な宗教音楽を聴いているよう感覚に陥る。
#5 サックスを加工した音??聴きようによってはハエの羽音のような、神経を逆撫でするような音が存在感を示す中、彼女の歌声が入ることでカオティックながら耽美的な美しさを感じた。
#6 重々しいビートが響く中、彼女の歌声が存在感を放つ。曲が進むにつれて、より破壊的なビートが撃ち込まれる。彼女の心象風景を切り取った??ような印象の楽曲。
#7 今までの楽曲と比べ、電子音の割合が増え、より冷たい部分が露わになった印象。
殺伐とした雰囲気、そこいらのエクストリームミュージックなんかよりよっぽど鬼気迫るものがあって怖い。
#8 雨水が金ダライに落ちるような音!?がループされる中、今までの楽曲と比べ、大分穏やかな時間が流れる。子守唄のような彼女の歌(というか囁き??)がこの一連のBirthmarksという世界観に終わりを告げる。
今作のダークなポストクラシカル、ドローンやノイズが飛び交う楽曲は、ゴシックな世界観との親和性が高いので、ダークなNEW WAVE/POST PUNK、KatatoniaやOpethなどのゴシックメタル、あとV系が好きな人にも十分アピールできるアルバムだと思う。間口は狭いが、中は意外と居心地良いと思うので、この機会にぜひ聴いてほしい!!
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